要するに

 大学の研究室で、お世話になった助手の方の口癖は、

  「要するに」

だった。
 何か相談事があって、延々と5分10分話をするんだが、ひとしきり終わった時点で、彼はいつも、見るからに度のきつそうなレンズの奥底で、まばたきを3回して、

  「要するに、○○ってことだな。」

 わずか1秒で話が言い換えられて終わる。
 どんなに熱を込めて語ろうとも、自分で何を言っているのか分からない混乱状態で、とめどもなく語っている状態でも、

  「要するに、○○なんだな」

 初めのうち、この対応は非常に冷たい印象を受けた。何か感動しているときでも、感情を伝えようとしても、彼はいつも同じ対応をする。
 共感とか同情、人情、温かみ、といった感情的なものは彼との間に人間関係を築くことは出来ないだろうと思ったし、人間らしくないと思った。

 BCBでは、相手に合せることによって、コミュニケーションを取るテクニックについて学ぶ。バックトラックでは、相手の言ったことを伝え返す。しかし彼は、こちらから何を言っても、「要するに」しか返ってこない。
 また、ペーシングにも全く関心を示さない。いくら、こちらが興奮していても、いつも同じペースで「要するに」とやられてしまう。

 彼は自分自身で何か考えるときであっても、独り言のように「要するに」「要するに」を繰り返し織り交ぜて話をしていた。
 どんな複雑に見える問題であっても、彼の手にかかると、簡易な形に集約され、容易に結論が相手からやってくるような印象があった。

 今から思い返すと、相手の言ったこと(自分自身の命題も含む)を、的確な語句で言い換えるという作業を彼はいつも行っているのだが、それは高度な理解力が必要な作業だ。理解しないと置き換え・言い換えはできない。その過程で解決策も見つける事ができるのだろう。
 たいへん高度な能力だと思う。
 私には真似ができない。

 結論を求めたがる男性と違って、女性は感情を共感することを主な目的として話をするのだという。
 だとすると、彼とデートしても女性はきっと楽しくないだろうと思った。
 会話を通して感情を共有しようとしても、「要するに・・・・」と言ったら、会話は続かない。
 少なくとも私は、初めのうち彼とはラポールは築けないだろうと考え、研究生活の行く末が不安に思えたものであった。

  卒業式の時に彼が言った意外な言葉。

「宿舎に住んで居て、通勤がないと、ロマンがないね。」

  その時に知った、もっとも驚いたこと。

彼は結婚していた。しかも、恋愛結婚だった。

 

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STZ :

中村睦さんお久しぶりです。8月10日は誕生日だったのに連絡先がなくなって、やっとこのブログをみつけました。STZねえちゃんです。おぼえてますか?
元気そうでなによりです。また訪問します。

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中村 睦
でんでん工房 代表

東京都杉並区生まれ。
ソフトウエアハウスで二十年ほど勤務した後独立。
現在は「でんでん工房」代表。
日本セキュリティ・マネジメント学会会員。
月に二回程度、お台場の日本科学未来館で展示解説を行っています。(担当は生命科学、地球とフロンティア、国際宇宙ステーション)
趣味はドライブと温泉。
著書に「お気に入りのubuntu」 「理系PC初心者のためのKNOPPIX活用法」など。
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